第6章: 生成AIの今後の展望

急速に進化する生成AIは、今後どのような方向に進むのでしょうか。本章では次世代AIの技術展望と、生成AIを取り巻くエコシステム化の展望について考察します。経営者として中長期的な視点でAI戦略を描くヒントとなれば幸いです。

目次

次世代AIの進化

● より高性能なモデルの登場: まず技術面では、今後さらに高性能なAIモデルが登場すると予想されます。OpenAIは将来的にGPT-5(仮称)開発も示唆しており、他社も次々と大規模モデルを投入しています。次世代モデルでは、現在のGPT-4が抱える幻覚や計算力不足といった課題が一段と改善され、人間の専門家レベルに近い精度で多様なタスクをこなせるようになるかもしれません。また、モデルのマルチモーダル対応が進み、テキスト・画像・音声・動画などを統合的に扱う「汎用AI」が実現に近づくでしょう。例えば、画像を見て適切な文章を書くだけでなく、動画編集や音声対話も一つのAIがこなす、といった形です。これにより、ビジネスでもワンストップで企画からデザイン・広告文作成・動画CM生成までAIが関与する時代が来るかもしれません。

● 小型・特化モデルの充実: 一方で、小型で軽量なモデルの開発も進んでいます (NTT独自の大規模言語モデル「tsuzumi」を用いた商用サービスを2024年3月提供開始 | ニュースリリース | NTT)。現在の巨大モデルを企業がフル活用するのは計算資源的に難しいため、NTTのtsuzumiのようにパラメータを大幅圧縮しつつ高性能なモデルが求められます。技術的には知識蒸留や量子化といった手法でモデルを小さくする研究が進んでおり、近い将来ラップトップPCやスマートフォン上で動く高性能な生成AIが実現する可能性もあります。Appleなどもデバイス内AIに注力しており、オンプレミス環境やエッジデバイス上で使えるAIが普及すれば、中小企業でも自社データを完全に社内完結で処理できるようになります。さらに、特定用途に特化したモデル(例:法律文書専門AI、医学論文専門AIなど)が増え、汎用モデルより少ないデータで高精度を発揮するケースも出てくるでしょう。これらを組み合わせて利用することで、コストを抑えつつ必要十分な性能を得る、といった戦略も可能になります。

● AIの自己進化と自律性: 興味深い展開として、AI自体が自ら学習・自己改善する方向性もあります。既にAutoGPTやAgentGPTといった、与えられたゴールに向けて連続的にタスクを生成実行する「エージェントAI」の試みも登場しました。今後、AIがAIを評価・改良するようなフレームワークが確立すれば、人手をほとんど介さずにAIが成長していくことも考えられます。例えば、企業内に常駐するAIが業務データを常に学習して勝手に賢くなっていくといったイメージです。ただし暴走を防ぐ仕組み(人間の監督)が必須なので、完全な自律AIというより、人間が定めた安全ガードレール内で自己最適化するAIになるでしょう。これが進めば、経営者はAIに学習させるデータ環境の提供と方向性の指示に注力し、あとの細かい改善はAI任せ、というスタイルも現実味を帯びます。

● AIと人間のコラボレーション深化: 技術が進んでも、人間の役割が消えるわけではなく、むしろAIと人間のコラボレーションがより深まるでしょう。UI/UXの観点では、自然言語でAIに指示して作業をこなす場面が増え、対話がインターフェースの中心になると考えられます。経営者はAIを「部下や助言者の一人」とみなし、会議にAIが参加してデータをリアルタイム分析し発言する、といったことも普通になるかもしれません。マイクロソフトのCopilot構想では、あらゆるビジネスアプリにAIが組み込まれ人を支援するとされています。つまりオフィスソフトやCRM、企画ツールなどで、ユーザーの少し先を読んでAIが提案を出すのが当たり前になるでしょう。これにより、人間は判断や創造といったコア業務により集中できるはずです。次世代AIは、人の意図をより正確に理解し、必要な情報をタイミングよく提示してくれるようになるため、人間とAIの垣根が今よりずっと低くなるでしょう。

● AIの安全性・倫理への注力: 次世代AIでは、安全性や倫理面への配慮も一層強化されます。世間でもAIの規制やガイドライン策定が進む中、技術側でも有害な発言をしないよう強力なフィルタが実装されたり、出力に説明を付与する「Explainable AI」の流れが加速するでしょう。企業にとっても、安心して使えるAIを選ぶことが重要になります。将来、AI製品・サービスに対する認証制度のようなものができ、安全なお墨付きのあるAIだけが企業利用されるという展開も考えられます。例えば、ISOのAI認証や業界団体のお墨付きAIなどです。そのためベンダー各社は競ってAIの透明性・信頼性をアピールしてくるでしょう。経営者としては、このようなAIの質保証にも注目しておく必要があります。

エコシステム化の展望

● 生成AIプラットフォームの台頭: 現在は各社のモデルやサービスが乱立していますが、今後プラットフォームの集約が起きるかもしれません。例えば、クラウド大手(AWS, Azure, GCP)が優良なAIモデルを揃え、ワンストップで提供する流れが進んでいます。また、ChatGPTプラグインのように、一つのAIサービスに他社サービスを組み込んでいく動きもあります。将来的には、主要なAIプラットフォーム上に様々な業種特化AIやツールが集まり、マーケットプレイス化するでしょう。企業は自社のニーズに合ったAI機能をそのプラットフォームから選んで組み合わせるだけで、AIエコシステムを構築できるようになります。例えば、A社の言語モデル+B社の画像モデル+業界特化プラグイン群を、C社のプラットフォーム上で統合利用、といった具合です。これにより、相互運用性も向上し、データ連携も容易になると期待されます。

● 業界横断の取り組み: 生成AIのエコシステム化では、企業間・業界間の連携も鍵となります。単独企業で独自AIを抱えるのでなく、業界全体でデータ共有してAIを鍛え合うようなケースが増えるかもしれません。例えば、金融業界で共同出資して特化AIを開発し各社で使う、医療業界で病院間データを共有してAI診断支援を構築する、といった取り組みです。日本でも、経産省や業界団体主導でデータ共有プラットフォームを整備しようという動きがあります。生成AIがある程度コモディティ化すれば、差別化はデータや応用ノウハウの部分になるため、そこを業界内で協力し、プラットフォーム上では共通AI基盤を使う、というエコシステムが有効となります。中小企業にとっても、大手が整えたAIエコシステムに乗っかることで、自社単独では持ち得ない恩恵を受けられるでしょう。たとえば地方商店街が合同で商品データを集めAIおすすめサービスを導入、といった協業も考えられます。

● AIサービスの専門分化: エコシステムが進むと、AIを活用した新たなサービス業も隆盛するでしょう。現在もAI活用コンサルやAIツール開発企業が続々出ていますが、さらに細分化が進み、AIモデルを最適にカスタマイズする「プロンプトエンジニア」、AIに適した業務プロセス変革を行う「AI-DXコンサルタント」、AIアウトプットの品質を監督する「AIオーディター」など、新職種が定着するかもしれません。企業経営の観点では、それら専門サービスを外部委託で活用し、自社はコア業務に集中する形が一般化しそうです。特に中小企業は、自前でAI部隊を抱えるより、信頼できるAIパートナー企業とのネットワーク(エコシステム)で補完する方が現実的です。将来的に、地域ごとに中小企業向けAI支援センターのような存在ができ、そこが地域企業のデータをまとめ、AI活用ノウハウも提供するようなエコシステムも考えられます。例えば、商工会が中心となり地域事業者連合のAIプラットフォームを運営、参加企業は共同で低コスト利用、といったモデルです。

● 社会インフラとの融合: エコシステム化の究極的な姿として、生成AIが社会の基盤インフラに組み込まれる未来も想像されます。検索エンジンに生成AIが標準搭載され情報アクセスが変わるのは既に始まりました(BingやGoogle Bard)。今後は、自治体サービスにAIチャットが常駐して市民の問い合わせに24時間答える、家庭の家電や車にも賢いAIが搭載されシームレスに連携するといった、生活インフラとの融合が進むでしょう。そうなれば、人々のAIへのリテラシーもさらに向上し、ビジネスにおけるAI活用も当たり前になります。国としても、生成AIを経済成長に活かす方策を打ち出し、企業間のデータ連携・AI利用を促進する政策を取るはずです。エコシステム全体で見ると、データをいかに循環させ価値を生み出すかが鍵となり、「AI時代の知のインフラストラクチャー」への投資が増えるでしょう。

● 新たな競争優位性: 最後に、エコシステム化が進んでもなお、各企業が考えるべきは自社の競争優位をどこに置くかです。AIが誰でも使える共通基盤になるほど、差がつく部分はAIの使い方になります。AIを組み込んだビジネスモデルの革新や、AIと人間の強みを最適配分した組織運営など、ソフト面の戦略が重要です。例えば同じAIツールを使っても、ある企業は顧客体験向上に抜群に活かし、別の企業はありきたりな使い方しかできない、という差が出ます。その差はエコシステム内での学習姿勢や創意工夫から生まれます。ですから、経営者は常に「次はAIで何ができるか」「業界のエコシステムの中で当社はどの役割を担うか」を考え、オープンマインドで協調しつつ自社らしさを発揮することが求められます。

以上の展望を踏まえると、生成AIはもはや一過性のブームではなく、今後のビジネス環境を形作る基盤技術となっていくでしょう。その進化とエコシステムの中で、自社がどうポジショニングし価値を創造するか—中小企業も含め全ての企業に問われる時代が来ています。

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